「精神科医だけど質問ある?」>>1によるブログ

2ch「精神科医だけど質問ある?」スレ主が、過去の質問をもとに"よくある質問集"を作ります

子宮頸がんワクチン問題に取り組む村中医師、ジョン・マドックス賞を受賞

子宮頸がんワクチンの安全性について啓発活動を続けてこられた村中璃子医師が、科学誌『ネイチャー』の主催するジョン・マドックス賞を、日本人として初めて授賞されました。
一方、ワクチンを危険な悪者と囃し立てる"被害者"団体の奇天烈な記者会見をこぞって取り上げた大手マスコミ(朝日・読売・毎日)は、ワクチンの安全性について的確な情報発信を続けた村中氏の受賞を黙殺しています。

それと関連して、過去記事をすこしだけ更新しました。

精神科医に「向いている人」「向いていない人」

「どんな人が精神科医になるのに向いているのか?」「精神科医に必要は適正は何か?」・・・というたぐいの質問をしばしばいただきます。これに確固たる正解はなくて、それこそ精神科医の数だけ答えがある問題だと思いますが、私の個人的な考えを紹介します。

「私は◯◯だけど精神科医に向いているか?」という類の質問をよくいただくのですが、到底向いていないと思われる理由を挙げてこられる方が多いので、先に私が考える「不向きな人」から先に説明したいと思います。

精神科医に「不向きな人」

人付き合いが苦手(苦痛)な方

「チーム医療」という言葉が強調されるようになって久しいですが、精神科医のお仕事というのは本当に多くの職種のスタッフが関わっています。コミュニケーション能力が重要なのは大抵の仕事に言えるでしょうが、とりわけ精神科医療では、患者様の生活全般を支えるという使命のために、関わる職種の広さでいえば他の科の比ではありません。
例えば在宅の認知症患者様一人を支えることを考えても、ざっと思いつく職種だけでも、精神科医・内科医・(病院)看護師・作業療法士精神保健福祉士・介護支援専門員・介護福祉士訪問看護などの医療スタッフに加えて、日常生活を支える患者の家族や親族、他にもこれらの調整を支えてくれる地域自治体(市役所など)の事務職員などなど――非常に多数の関係機関や専門スタッフが関わっています。精神科医はその中心として彼らをまとめ上げて、支援のプランを組み立てていくことが求められます。
そうした業務を行う中で、人付き合いが苦手であることはかなり負担になると思いますし、苦手なままでは済まされない問題でもあります。

自身が精神障害、メンタル面の問題を抱えている方

障害を抱えると仕事にハンデがあるのは当たり前なのですが、少なくとも精神障害を抱えていることが"有利に働くことは無い"という意味です。これについてはスレでお答えするたびに大いにバッシングを受けるのですが、事実だと思います。
精神科を目指しているという学生さんらから「自分も精神障害を抱えているので、同じような患者さんを助けてあげたい」とか、「(そうした経験があるから自分は)共感力が高い」「病気の人の気持ちがよくわかる」などのアピールを受けることがよくあります。そのこころざしは立派だといつも感服しますが、それは誤りです。自身がメンタルの問題を抱えているからと言って、患者の気持ちが分かることはありません。
人間は100人いれば、その考え方も感じ方も千差万別です。あなた1人の経験はあなた固有のものであって、100人の患者さんにそのまま当てはめることは出来ません。もしかしたら100人に1人くらいは自身の経験とごく類似した患者に遭遇するかもしれませんが、精神科医は残り99人にも対応できなければいけません。無理に自身の経験を当てはめようとすれば、必ず致命的な誤りを犯します。
またそもそも、精神科医が扱う病気の種類は膨大です。主なものだけで数十種類はあります。よしんば自身の経験が一つの病気の対応について何か良い影響があるとしても、それは精神科医としての仕事のごく一部に過ぎないことは認識する必要があります。

あとは私の個人的な経験則ですが、この手の『想いが強すぎる』方は、自分は患者さんの気持ちがわかるという勘違いから、ろくに勉強をしないまま、我流のへんてこな治療を続けてしまう人が多いように思います。ひどい場合だと、正しい治療を知っているのにも関わらず、敢えてそれを外して「自己アピール」をする人さえいます・・・若干の偏見が入っているかもしれませんが。 当たり前ですが、フィーリングや我流は許されません。

"霊感がある"方、"霊能力をお持ち"の方など

いわゆるスピリチュアルな能力に長けているという方について。霊感や霊能力というものがどのようなものなのか私もよくわかっておりませんが、精神科医療はあくまで「医学」という学問の延長にあるものですから、霊感や霊能力は使いませんし、使ってはいけません。
実際世の中には、こうした能力を活かして、我々が"精神疾患"と呼んでいる状態を改善させようとされている方もおります(いわゆる祈祷師や霊媒師)。ただそれは「医療では無い何か」であり、精神科医の仕事ではありません。
そういう意味で、「不向き」なわけではありませんが、少なくとも"霊感"や"霊能力"は精神科医の仕事の助けにはならないし、精神科医としてのお仕事は、あくまで霊感や霊能力抜きの範囲で行うべきです。

精神科医に「向いている人」

逆に、精神科医に向いていると思うのはこんな人です。

地道な勉強を続けることができる人

お伝えしたいのは、精神科医というのは決して、何か特殊な能力をもった人だけが出来る仕事ではない、ということです。何か読心術のような超能力めいたものを身に着けた姿を想像されることが多いのですが、我々も実際そんな特殊能力は持っておりませんし、そんなものは必要もありません。
先にも書きましたが、精神科医の仕事は「臨床医学」という学問の延長であり、「真面目に勉強さえすれば、だれでも精神科医になれる」ものであるし、実際そうでなくてはいけません。

なので精神科医になるのに、特別な素養や能力は必要ありません。しかし医学研究は日進月歩の分野ですので、たとえ学生時代に勉強したからと言って足りるものではなく、生涯にわたって情報のアップデートを続けていかなくてはいけない、という大変さがあります。こうした地道な勉強を続けていくことができるかどうかが、一番の「適性」ではないかと思います。

ココロだけでなく、カラダの病気にも興味を持てる人

精神科医というと他の科の医者とは少し異質なイメージを持たれることが多いですが、医者は医師免許をとるまではみんな一緒に、一般的な内科学・外科学など全身の病気について勉強しています。また現在の教育システムだと、免許を取得してからも2年ほどは、内科などの研修を受けています。
なぜかというと、実のところ精神科医も普段のお仕事の中で、カラダの病気(内科的な病気など)を日常的に扱う必要があるからです。精神疾患は「脳の病気」と考えられていますが、脳もカラダの臓器の一部である以上、カラダの別の病気から影響を受けることもあるし、逆に影響を及ぼすこともあるからです。常に全身の病気について考えながら治療を行う必要があり、時にはその治療も行わなければなりません。
あるいは、精神科の専門病院というのは、たいてい精神科医しかおりませんので、入院している患者さん達については、そのカラダにおこるあらゆる病気を、精神科医が責任をもって治療する必要があります。(もちろん必要に応じて各々専門の先生の助けを得ながら行いますが)

そんな事情から、カラダを含めたあらゆる病気に興味を持てる方が精神科医として向いているし、逆に「私はココロの問題にしか興味ないんだ、カラダの病気なんか扱いたくないよ!」という方は精神科医には向いていません
そういった方は、心理学を学ばれるとか、心理士を目指すのが良いのではないかと思います。

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雑記:久しぶりの更新です。リアルお仕事が多忙で更新滞っておりすいません。例年だと年末年始に1本スレ立てすることが多いんですが・・・あまり期待せずにお待ち下さい。

精神科医が見た『ブラック産業医問題』弁護士提言への反論

本日のネットニュースで主要記事扱いにされている「ブラック産業医」問題ですが、たまたま昨晩『質問ある?』スレでこの話題をお話していたんですよね。紹介がてら、少しこの問題について触れておきます。

www.bengo4.com

私としては、企業に迎合する産業医を批判するこの主張は、片手落ちだと思うのです。
すなわち、ここではさも立派なもののように扱われている精神科主治医だって「金を出す者に迎合する」という構造上のジレンマからは逃れられないんです。

このニュース記事によると、この北神弁護士は、

産業医は10、20と掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができます。お金を出してくれる企業に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか。現状は、本人の良心に委ねられているだけで、産業医の中立性、専門性を担保する制度が存在しません」(北神弁護士) ※太字強調は著者編集

と指摘しておりますが、これって「産業医」を「主治医」、『企業』を『患者』に置き換えても文章が成り立つの。たとえばこう。

主治医は100人、200人と患者を掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができます。お金を出してくれる患者に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか。現状は、本人の良心に委ねられているだけで、主治医の中立性、専門性を担保する制度が存在しません」(>>1)

要するにね、主治医って中立じゃないんですよ。だって、主治医は患者から金貰ってるんだから。「患者迎合」です。
中立性を担保する制度が無いのは、主治医だって同じことです。

要するにこの問題は、

『休ませたくない(orクビを切りたい)企業&産業医
『休みたい(or休む必要がある)患者&主治医』

という、構造的な対立関係が背景にあるわけです。

一応断っておくと、明らかに医学的に不当な判断を『故意に』行うのは論外ですよ。それに、世の中患者に迎合する藪医者だけじゃなく、立派なプロ意識もってる医者もたくさんいます。
でもこの場合に悪いのは、たとえ医学的に正しい治療を行おうとする医師にとっても『長めに休職させとくほうが安全』というジレンマに陥ること。その辺の詳細は、記事の最後に、昨日掲示板に書いたレスを転載しておきますので御覧ください。

で、北神弁護士は以下のような提言を行ってるわけですが、

(1)復職の可否について、産業医と主治医の判断が異なる場合、産業医が主治医に十分な意見聴取を行うことを法令で義務化すること、(2)法令による産業医に対する懲戒制度の創設、(3)メンタルが原因による休職の場合、精神科専門医でない産業医が復職の可否を判断できないようにすること。

これって、主治医が中立であることを前提としてるんですよね。
主治医が中立ではない以上、この提言を実行した所で、問題の解決は図れませ・・・もとい、「患者側が有利な制度」にはなるかもしれませんが、公平性とか医学的妥当性が担保された制度にはなり得ません。

じゃぁ対策は何かと言われると、これも難しい。
パッと思いつくのは『しっかり治療して仕事に復職させる医師(医療機関)を評価する』仕組みを作ること。厚労省なんかは「医療機関毎の、治療患者の復職率を成績として評価するー」なんて阿呆なことをいかにも言い出しそうですが、当然こんな対策では何の役にもたちません。重症な患者は「受け入れ拒否」して軽症な患者だけ見れば成績は上がるのですから、重症患者が「難民」化するだけです。(※なお数年前のことですが、厚労省は『沢山の薬を使ってるのは医者が無能な証拠だから、罰として診察料安くするよ☆』という制度を本気で導入しました。沢山の薬が必要なほど重症な患者を診ている医師を労うという発想は無いのでしょうか?意味が分かりません)

正直、この問題はそう簡単に解決するものではないし、上で述べた通り北神弁護士の述べた対策も残念ながら本質的な解決にはなりません。

私程度の脳味噌では、もっとも手近で現実的な対策は、結局『医師個人の職業意識を高める』ではなかろうかと、精神論に行き着いてしまう次第です。

最後に、昨日の掲示板の記事を以下に転載しておきますのでご参考になさってください。

精神科医だけど質問ある? [無断転載禁止]©2ch.net

639 : 名も無き被検体774号+@無断転載は禁止2017/04/10(月) 00:18:35.16 ID:0uUS9I9P
主治医の先生って基本的には
患者の味方だと思うんですが。
産業医の先生は会社の味方ですか?

651 : ◆AMAPSYMEDPA1 @無断転載は禁止2017/04/13(木) 00:49:35.37 ID:rt/1Uis3
>>639
非常に難しい質問です。
(以下、社員=被雇用者=患者、会社=雇用者。ほか、用語の使い方は結構適当です。)


本来は「社員の味方」であるべき、です。
しかし産業医はその会社に雇われている身ですので、身も蓋もない言い方をすれば、会社にとって不利益なことをする産業医はクビになります。
そういう理由から、実際は(一般の医療機関に医師と比べたら)断然、会社寄りの立場だと考えたほうが良いと思います。


ただ、そもそも論で言うなら、会社は社員の健康を管理する義務があるから産業医を置いているのであって、この件について社員と会社の利害対立は無いはずなんですよね。
「社員の健康を守ること」=「社員の味方であること」は、基本的には会社にとっても社員にとっても有益なはずなんです。
本来は、社員の健康をまもりつつ、業務を最大限円滑にまわすための調整役として期待されているのが産業医です。

なのにこういう質問が出るのは、少なくない会社が、『病休の多い厄介な社員』のクビを切る役割を産業医に求めているからだと思います。
特に精神疾患においてですが、病気を理由に社員へ自主退職を迫ったり、(主治医からの診断書があっても)病休を認めない、逆に復帰を認めないなどの"いやがらせ"をしてるケースを時々見かけます。
非常に難しい問題です。


・・・とまぁ、ここまで穿った見方で産業医を叩いたんですが、これだとフェアじゃないので、普通の主治医についても平等にこき下ろしておきます。


たとえば開業医の先生の立場で考えてみますと、先生は当然儲かった方が嬉しいので、診断書を出したがります。
うつ病で休職したいんで診断書ください」なんて言おうもんなら、喜んで書いてくれます。診断書、あんな紙切れ1枚でうん千円ですからね。ボロい商売です。
あと、本当にうつ病の休職なら少なくとも2~3ヶ月は休職期間が必要なんですが、セコい医者は非常に短い期間の診断書を出したがります。2週間とか1ヶ月とか。
その方が、延長するときにもう一枚分金取れるから。1回の休職で2倍3倍(医者が)お得です。

それに、仕事させながら治療するよりも、とりあえず休ませちゃったほうが簡単だし確実です。働かせながら治療するってのは難しいものです。
もっといえば、休職したいと来た患者を「休むな働け!」と励ました末、患者が『先生にも見放されたので死ぬしか無い』なんて遺書でも残して自殺した日には、ワイドショーのトップ記事待ったなしです。遺族からの損害賠償請求も不可避です、たぶん民事では負けます。
医師にとって、ギリギリなラインを見極めて患者を働かせ続けることには、デメリットが大きすぎる上に、医師の自己満足以上の価値はありません。
一方、患者を休職させることで、医者にはメリットしかありません。


まぁ、つまりそういうことです。

過去ログまとめ① [2016/07/29-2016/09/25]

精神科医だけど質問ある? [無断転載禁止]©2ch.net
http://hayabusa8.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1469798291/ 
※この記事は、上記過去スレから一部抜粋・編集したものです。全体としての読みやすさを優先したために削除したレスが多く、意味が通りづらくなっている部分があります。不明な点があれば、上記過去スレを直接ご参照下さい。 
1: ◆AMAPSYMEDPA1 @無断転載は禁止
過去にも何回か同じタイトルでやってます。
お久しぶりの方はお久しぶりです。

前回ほどはスピード出ないかもしれないけど
細々やっていきますのでよろしくお願いします。

 

8: 名も無き被検体774号+@無断転載は禁止
薬一杯出して儲けるのやめてくんない?

 

16: ◆AMAPSYMEDPA1 @無断転載は禁止
>>8
「医者が儲けるために薬沢山出してる」みたいな風潮は解せぬ。
薬が増えて儲かるのは『製薬会社』と『調剤薬局』です。
最近は、なぜか薬が多いと、カウンセリング料が減算されるという謎仕様に―
 
4: 名も無き被検体774号+@無断転載は禁止
俺も精神科医なりたいけど大学の勉強とかやっぱきつい?
 
7: ◆AMAPSYMEDPA1 @無断転載は禁止
>>4
大学での勉強よりも、医学部入試の心配をして下さい。
入学出来た人なら、変な遊びにハマったり精神病まない限り、卒業は出来る。

私個人的には、勉強は高校受験が一番辛かった。
 
※以下クリックで続きを表示しますが、1000まで行ったスレですので長いです。何回かに分けて読むことをお勧めします。

精神科医から見た"認知症・運転免許"騒動

結論:本当に危険なのは認知症ではなく「高齢者」

相次ぐ高齢者の自動車事故。原因は「認知症」?

昨今、高齢者の自動車事故が相次いて取り上げられております。特にアクセルの踏み間違え、信号無視、逆走などで大きく報道されていますね。

そして批判の矛先は「認知症」へ。2017年3月には道路交通法が改正され、逆走や信号無視などの違反をした75歳以上に対して"認知機能検査"を実施、成績が悪い者には医師の診察を義務付けるとしています。

過去にも似たような騒動が「てんかん」で...

この一連の流れをみて思い出すのは、2011年栃木県鹿沼市でクレーン車が小学生の列に突っ込み死者6名を出した事故。これは患者が「てんかん発作」を起こした結果であると認定され、後の法改正の契機となりました。


ただ、これらの一連の流れが、精神科医としてどうにも腑に落ちないのです。

そもそも「認知症」とは?

認知症の定義はいろいろありますが、病気としての認知症の定義はこんな感じ。

DSM-Ⅳによる認知症の診断基準

  • 多彩な認知欠損。記憶障害以外に、失語、失行、失認、遂行機能障害のうちのひとつ以上。
  • 認知欠損は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準から著しく低下している。
  • 認知欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。
  • 痴呆症状が、原因である一般身体疾患の直接的な結果であるという証拠が必要。

認知症|疾患の詳細|専門的な情報|メンタルヘルス|厚生労働省

もっと大胆に噛み砕いて言うと、

  • 物忘れや判断力の低下がある
  • 日常生活に支障があり、社会生活・職業遂行が困難である
  • それは脳の病気が原因であって、単なる加齢や他の病気の影響ではない

ちなみに、医者のいう「認知症」に"加齢による物忘れ"は含みません。
さて。この時点で冷静に考えればおかしなことに気づく。

認知症」患者が事故を起こす?

果たして報道のような事故の多くが、本当に「認知症」患者によって引き起こされているか、ってのは疑問がある。
もちろん認知症にも程度はいろいろあるけど、多くの認知症患者は、そもそも自動車運転が物理的に困難です。たとえば、鍵の開け方がわからなかったり、エンジンのかけ方・ギア操作がわからない、車庫を出る前に事故ってるとかね。そういう方が圧倒的に多いと思う。
一方、一連の報道に出る方は、普通にエンジンをかけて出発し、左側通行で概ね信号守って運転してるわけですからね。これは、本当に認知症なのかどうかも怪しいし、認知症だったとしても"軽い"部類だということは容易に推測がつく。
もっと言えば、「信号の見落とし」「ブレーキだと思ったらアクセルだった」などは昔から事故の主要な原因であって、当然ながら若い人でも起こす。別に認知症に限ったことじゃない。そうすると、『認知症患者が事故を起してる』という前提がどうも怪しく思えてくる。

認知症批判」は隠れ蓑??

そうやって順番に追ってみると、結局今回の騒動が標的にしてるのは、実は認知症患者じゃなくて、ただの「高齢者」だということが見えてくる。もっと具体的には、"加齢による能力低下"。当然ながら誰しも、加齢によって注意力や動体視力は確実に低下する。それが病的水準じゃなくても、瞬時の判断を求められる自動車運にとって危険になることは想像に難くない。*1

ただ、高齢者全員を一概に「能力低下」扱いすると、いろいろとよろしくない*2から、「認知症」というもっともらしい単語を全面に押し出してるだけで、実態はただの『高齢者狩り』に他ならないと思うんです。

精神科医のとばっちり

で、そんな"隠れ蓑"にされて迷惑を被ってるのが、精神科医をはじめ、認知症を診てるお医者達。今後は事故を起こした人が病院に送られてきて、『認知症かどうか』を診断受けるようにってことになってるけど、上で見てきたとおり実のところ求められてるのは、『運転に支障のある能力低下があるかどうか!?』なのですから。ですがね・・・

  そんなこと知らない。
  知ったこっちゃない。

医者が判断できるのは「病気かどうか」まで。

加齢による能力低下は程度の問題であって、当然誰だって事故をおこす可能性はある。なら何処で線を引くのか?何を基準に判断するのか?―それは政治的な判断であって、まったくもって医学とは関係ない次元のお話。そんな役割を医者に丸投げされても、正直困るのです。

実は上で挙げた「てんかん」騒動のときは、とばっちりで「統合失調症」や「躁鬱病」などの患者がやり玉にあげられておりました。*3その結果、一応ガイドラインこそ作られましたが内容は空虚で、はっきり言って役に立っていません。*4

『誰でも、歳取ったら、運転は辞めた方がいい』

ってことを正面切ってメッセージとして発信し続けないかぎり、こういう小手先の対処では問題は解決しないと思います。*5それどころか、多くの運転中の高齢者に対して「自分は認知症じゃないから運転しても大丈夫」という誤ったメッセージを与えかねない。
政治家さんは人気取りとか体裁を取り繕うだけでなく、有効性のある対策をとってほしいものです。

*1:よく見ると、一部マスコミでは"認知機能低下"と"認知症"いう表記を併記してるしてる。文脈的にはこの"認知機能低下"という用語が一番正しい。

*2:選挙対策的な意味で

*3:"てんかん"はON-OFFが比較的分かりやすい病気なので、行政的に基準さえ決めてくれればあまり問題にならない

*4:なので私は、これらの病気の方へはほぼ無条件に運転許可してます。だって運転不可と判断するガイドライン基準が曖昧すぎるんですもの

*5:免許の自主返納として、既に行ってはいるんですがね...

精神科医から見た戸塚ヨットスクール。

結論:戸塚氏は精神疾患を誤解した上で、根拠の乏しい独自理論を展開している

戸塚宏氏(戸塚ヨットスクール)とは?

戸塚氏の発言はなかなかキャッチーです。特に、不登校ニートなどの問題に強い関心を持っている方ほど、彼の理論はある種"魅力的"に感じるのでしょう。
7月16日の以下の記事を読んで、既にtwitterユーザーらが大量の「共感する」引用をしています。これは非常に危険なことだと思うので、ここで反論しておこうと思います。

なお戸塚ヨットスクールについてご存じない方は以下参照。*1
簡単にいえば、"不登校・引きこもりの矯正施設"として有名なところです。
wikipedia:戸塚ヨットスクール


戸塚氏と精神医学分野の関わり

記憶にあたらしい所だと、精神科系学会でこんな"事件"がありました。

第 27 回日本総合病院精神医学会総会における戸塚宏氏の特別講演に関する理事会声明

戸塚宏氏の特別講演「私の脳幹論」(中略)本学会理事会は、戸塚氏が過去の暴力による体罰とその重大な結果について何ら反省を示していないこと、用いられている疾患概念等は精神医学の正しい理解に基づいたものではないこと、したがってその内容は本学会の見解とは全く相容れないことを全会一致で認定した。

http://psy.umin.ac.jp/content/document/rijikai_seimei_20150509.pdf

「閉じこもり・引きこもり支援」の講演に戸塚氏を招いたら*2、虐待推奨発言は出るわ、既存の精神医学の考えを全否定するわの凄い内容となり、隣の学会から名指しで批判される事態になったため、慌てて声明を出した次第です。

なお同事件を受けて児童青年精神医学は、戸塚氏の独自理論(脳幹論)を検証しつつ、非科学的であり精神医学の臨床現場への重大な破壊行為であると厳しく批判しています。*3
日本児童青年精神医学会 2015.04.15「私の脳幹論」理事会声明


戸塚氏の精神疾患への「誤解」と「二枚舌」

なお、話の前提となる"大人の発達障害"についての諸々は以下記事をご参照ください。


そして、ニュース記事の中で多く「賛同の声」が上がっている戸塚氏の発言はこれです。

戸塚も「捨てる方が冷たい」と言う。戸塚ヨットスクールは原則的に、精神疾患者、知的障害者自閉症の子以外にはすべて門戸を開いている。ただし、戸塚は今の時代に精神疾患と診断された子どもの8割が誤診だと言い切る
学校が手に負えんやつに、みんな病名を与える。発達障害の子どもって、ものすごく増えてるじゃない。あんなのインチキや。そう言えば学校の責任じゃなくなるからでしょ。昔から、自分の子どもを精神疾患だと言われ、納得できない親がうちに連れてくることがよくあった。やってみると、10人中8人は治る。昔はそういう子どもを発達障害なんて言わんやって」

これだけ聞くと誰も見捨てない超絶手腕のように思えますが、そのカラクリはお粗末なものです。上の「児童青年精神医学会」声明から引用すると、

前章に引用した通り戸塚氏は、発達障害はトレーニングで治ると述べ、幻聴等の精神病症状がある場合でもトレーニングをまず行い、悪化した時は統合失調症なので、そのときに初めて精神病として扱えばいいと述べている。これは換言するなら、病気や障害を有する者が不適切な対応をされることにより悪化した場合に、初めて適切な治療や支援を受けるべきであるという考えであり、重大な人権侵害である。
日本児童青年精神医学会 2015.04.15「私の脳幹論」理事会声明

つまり戸塚氏の中では「俺が治せないものが精神障害」なのです。つまり構造としては、

精神疾患と診断された子の8割は誤診だ、俺に任せろー!』
→『良くなった、やっぱり精神障害じゃなかったんだ!』
→『悪化したわ、俺が治せないものは精神障害だから他所行けや!』

・・・という超理論です。

なお、他によくtwitterで引用されている部分に、

学校が手に負えんやつに、みんな病名を与える。

がありますが、この指摘自体はその通りなんですけれども、別に批判されるようなことじゃありません。当然の事です。
精神医学の疾患概念として、社会的に適応できなくなっている代表的な群に「ラベル」を付けて今後の対策を立てやすくすることは必要な手順です。
特に発達障害については生物学的な背景も指摘されており、疾患単位としてはごく妥当なものであろうと思いますが、このそう言えば学校の責任じゃなくなるからでしょ(責任の外在化)理論と合わさると、批判の対象となりやすいようです。ですが「病名(ラベル)」を付けることは必ずしも責任の外在化を意味しません。外部からの支援可能性を示すだけです。
最後に、手前の記事の引用で恐縮ですが、発達障害についての持論を添えて終わりにします。

"大人の発達障害"で休職することになった時、何を考えるか?

これは発達障害に限らず殆どの精神疾患で言えることですが・・・
発達障害は、広い意味での「病気」ではありますが、『病気なら仕事が出来なくても許されるのか?』といえば現実問題として許されません。実際、外来を訪れる方の中には『発達障害だから急に仕事任せられても出来ません、もっとゆったりした仕事に変えてほしい!』などと主張する患者様たちが多くおります。でも冷静に考えて欲しいのですが、常識的に考えて、そんな要求を一方的に突きつけてくる社員を、引き続き雇いたいと思う経営者がいるでしょうか?(中略)あまりに"ワガママ"な要求ではないでしょうか?

精神疾患に限らず、病気であるということは「労働する能力が低い」ということです。だから卑屈になれとは言いませんが、医師の診断書を免罪符か何かと勘違いして『俺様は病気なんだ、お前らは俺のために尽くせ!』と会社に要求するようでは、誰も貴方を助けようとなどしません。まず変わるべきはあなた自身だ、ということは忘れないほうがいいと思います。そして会社が手を差し伸べてくれた時、感謝しながらお互いに歩み寄ると、復職への道が開けると思います。
"大人の発達障害"について - 「精神科医だけど質問ある?」>>1によるブログ

来月ころには時間出来そうなので、久しぶりにスレ立てでもしようかな―。

*1:この記事読むような方は既にご存知だとは思うが...

*2:なぜ招いたし!?

*3:なお同学会は、講演会の現場で何の反論も行わなかった司会者や、その後講演内容を学会誌に無批判に掲載した総合病院精神医学会の対応についても強く批判しています。

近況報告

ご無沙汰しております、>>1です。

3日坊主よろしく2週間しかまともに書き続けられなかったこちらのブログですが、未だに想像以上のアクセスをいただき、正直驚いております。*1
正直こんなブログよりも、お上品に体系的に情報がまとめられたサイトは他にもいくらでもあると思うのですが、それでもこれだけのごアクセスを頂けているのは、皆さんやはりダイレクトに『そこんとこ結局どうなのよ!?』ってのを知りたいのだと思います。これは私が「~質問ある?」スレを立ててきた経験からの感想ですが。

精神科領域というのは、今なお謎だらけの領域です。また白黒付けられない微妙な事項が多いので、どうしても皆(※現場の医師も含めて)玉虫色の回答になりがちですが、スレ立てで多くの質問を拝見してきた経験を活かし、出来る限り、みなさんの疑問に直結した記事を書きたいと思います。

出来るだけ散発的にでも投稿していきたいと思ってますが、本業多忙につき本格的な再開は平成28年秋頃になりそうです。(たぶん本格始動できる位になったらまたスレ立てすると思いますが)

ろくに記事がないまま半年を過ぎようとしている当ブログですが、今後とも宜しくお願い致します。

*1:ただしアクセスの約半数は子宮頸がんワクチンの記事