「精神科医だけど質問ある?」>>1によるブログ

2ch「精神科医だけど質問ある?」スレ主が、過去の質問をもとに"よくある質問集"を作ります

精神科医が見た『ブラック産業医問題』弁護士提言への反論

本日のネットニュースで主要記事扱いにされている「ブラック産業医」問題ですが、たまたま昨晩『質問ある?』スレでこの話題をお話していたんですよね。紹介がてら、少しこの問題について触れておきます。

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私としては、企業に迎合する産業医を批判するこの主張は、片手落ちだと思うのです。
すなわち、ここではさも立派なもののように扱われている精神科主治医だって「金を出す者に迎合する」という構造上のジレンマからは逃れられないんです。

このニュース記事によると、この北神弁護士は、

産業医は10、20と掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができます。お金を出してくれる企業に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか。現状は、本人の良心に委ねられているだけで、産業医の中立性、専門性を担保する制度が存在しません」(北神弁護士) ※太字強調は著者編集

と指摘しておりますが、これって「産業医」を「主治医」、『企業』を『患者』に置き換えても文章が成り立つの。たとえばこう。

主治医は100人、200人と患者を掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができます。お金を出してくれる患者に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか。現状は、本人の良心に委ねられているだけで、主治医の中立性、専門性を担保する制度が存在しません」(>>1)

要するにね、主治医って中立じゃないんですよ。だって、主治医は患者から金貰ってるんだから。「患者迎合」です。
中立性を担保する制度が無いのは、主治医だって同じことです。

要するにこの問題は、

『休ませたくない(orクビを切りたい)企業&産業医
『休みたい(or休む必要がある)患者&主治医』

という、構造的な対立関係が背景にあるわけです。

一応断っておくと、明らかに医学的に不当な判断を『故意に』行うのは論外ですよ。それに、世の中患者に迎合する藪医者だけじゃなく、立派なプロ意識もってる医者もたくさんいます。
でもこの場合に悪いのは、たとえ医学的に正しい治療を行おうとする医師にとっても『長めに休職させとくほうが安全』というジレンマに陥ること。その辺の詳細は、記事の最後に、昨日掲示板に書いたレスを転載しておきますので御覧ください。

で、北神弁護士は以下のような提言を行ってるわけですが、

(1)復職の可否について、産業医と主治医の判断が異なる場合、産業医が主治医に十分な意見聴取を行うことを法令で義務化すること、(2)法令による産業医に対する懲戒制度の創設、(3)メンタルが原因による休職の場合、精神科専門医でない産業医が復職の可否を判断できないようにすること。

これって、主治医が中立であることを前提としてるんですよね。
主治医が中立ではない以上、この提言を実行した所で、問題の解決は図れませ・・・もとい、「患者側が有利な制度」にはなるかもしれませんが、公平性とか医学的妥当性が担保された制度にはなり得ません。

じゃぁ対策は何かと言われると、これも難しい。
パッと思いつくのは『しっかり治療して仕事に復職させる医師(医療機関)を評価する』仕組みを作ること。厚労省なんかは「医療機関毎の、治療患者の復職率を成績として評価するー」なんて阿呆なことをいかにも言い出しそうですが、当然こんな対策では何の役にもたちません。重症な患者は「受け入れ拒否」して軽症な患者だけ見れば成績は上がるのですから、重症患者が「難民」化するだけです。(※なお数年前のことですが、厚労省は『沢山の薬を使ってるのは医者が無能な証拠だから、罰として診察料安くするよ☆』という制度を本気で導入しました。沢山の薬が必要なほど重症な患者を診ている医師を労うという発想は無いのでしょうか?意味が分かりません)

正直、この問題はそう簡単に解決するものではないし、上で述べた通り北神弁護士の述べた対策も残念ながら本質的な解決にはなりません。

私程度の脳味噌では、もっとも手近で現実的な対策は、結局『医師個人の職業意識を高める』ではなかろうかと、精神論に行き着いてしまう次第です。

最後に、昨日の掲示板の記事を以下に転載しておきますのでご参考になさってください。

精神科医だけど質問ある? [無断転載禁止]©2ch.net

639 : 名も無き被検体774号+@無断転載は禁止2017/04/10(月) 00:18:35.16 ID:0uUS9I9P
主治医の先生って基本的には
患者の味方だと思うんですが。
産業医の先生は会社の味方ですか?

651 : ◆AMAPSYMEDPA1 @無断転載は禁止2017/04/13(木) 00:49:35.37 ID:rt/1Uis3
>>639
非常に難しい質問です。
(以下、社員=被雇用者=患者、会社=雇用者。ほか、用語の使い方は結構適当です。)


本来は「社員の味方」であるべき、です。
しかし産業医はその会社に雇われている身ですので、身も蓋もない言い方をすれば、会社にとって不利益なことをする産業医はクビになります。
そういう理由から、実際は(一般の医療機関に医師と比べたら)断然、会社寄りの立場だと考えたほうが良いと思います。


ただ、そもそも論で言うなら、会社は社員の健康を管理する義務があるから産業医を置いているのであって、この件について社員と会社の利害対立は無いはずなんですよね。
「社員の健康を守ること」=「社員の味方であること」は、基本的には会社にとっても社員にとっても有益なはずなんです。
本来は、社員の健康をまもりつつ、業務を最大限円滑にまわすための調整役として期待されているのが産業医です。

なのにこういう質問が出るのは、少なくない会社が、『病休の多い厄介な社員』のクビを切る役割を産業医に求めているからだと思います。
特に精神疾患においてですが、病気を理由に社員へ自主退職を迫ったり、(主治医からの診断書があっても)病休を認めない、逆に復帰を認めないなどの"いやがらせ"をしてるケースを時々見かけます。
非常に難しい問題です。


・・・とまぁ、ここまで穿った見方で産業医を叩いたんですが、これだとフェアじゃないので、普通の主治医についても平等にこき下ろしておきます。


たとえば開業医の先生の立場で考えてみますと、先生は当然儲かった方が嬉しいので、診断書を出したがります。
うつ病で休職したいんで診断書ください」なんて言おうもんなら、喜んで書いてくれます。診断書、あんな紙切れ1枚でうん千円ですからね。ボロい商売です。
あと、本当にうつ病の休職なら少なくとも2~3ヶ月は休職期間が必要なんですが、セコい医者は非常に短い期間の診断書を出したがります。2週間とか1ヶ月とか。
その方が、延長するときにもう一枚分金取れるから。1回の休職で2倍3倍(医者が)お得です。

それに、仕事させながら治療するよりも、とりあえず休ませちゃったほうが簡単だし確実です。働かせながら治療するってのは難しいものです。
もっといえば、休職したいと来た患者を「休むな働け!」と励ました末、患者が『先生にも見放されたので死ぬしか無い』なんて遺書でも残して自殺した日には、ワイドショーのトップ記事待ったなしです。遺族からの損害賠償請求も不可避です、たぶん民事では負けます。
医師にとって、ギリギリなラインを見極めて患者を働かせ続けることには、デメリットが大きすぎる上に、医師の自己満足以上の価値はありません。
一方、患者を休職させることで、医者にはメリットしかありません。


まぁ、つまりそういうことです。