精神科医から見た"認知症・運転免許"騒動
結論:本当に危険なのは認知症ではなく「高齢者」
相次ぐ高齢者の自動車事故。原因は「認知症」?
昨今、高齢者の自動車事故が相次いて取り上げられております。特にアクセルの踏み間違え、信号無視、逆走などで大きく報道されていますね。
そして批判の矛先は「認知症」へ。2017年3月には道路交通法が改正され、逆走や信号無視などの違反をした75歳以上に対して"認知機能検査"を実施、成績が悪い者には医師の診察を義務付けるとしています。
そもそも「認知症」とは?
認知症の定義はいろいろありますが、病気としての認知症の定義はこんな感じ。
- 多彩な認知欠損。記憶障害以外に、失語、失行、失認、遂行機能障害のうちのひとつ以上。
- 認知欠損は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準から著しく低下している。
- 認知欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。
- 痴呆症状が、原因である一般身体疾患の直接的な結果であるという証拠が必要。
もっと大胆に噛み砕いて言うと、
- 物忘れや判断力の低下がある
- 日常生活に支障があり、社会生活・職業遂行が困難である
- それは脳の病気が原因であって、単なる加齢や他の病気の影響ではない
ちなみに、医者のいう「認知症」に"加齢による物忘れ"は含みません。
さて。この時点で冷静に考えればおかしなことに気づく。
「認知症」患者が事故を起こす?
果たして報道のような事故の多くが、本当に「認知症」患者によって引き起こされているか、ってのは疑問がある。
もちろん認知症にも程度はいろいろあるけど、多くの認知症患者は、そもそも自動車運転が物理的に困難です。たとえば、鍵の開け方がわからなかったり、エンジンのかけ方・ギア操作がわからない、車庫を出る前に事故ってるとかね。そういう方が圧倒的に多いと思う。
一方、一連の報道に出る方は、普通にエンジンをかけて出発し、左側通行で概ね信号守って運転してるわけですからね。これは、本当に認知症なのかどうかも怪しいし、認知症だったとしても"軽い"部類だということは容易に推測がつく。
もっと言えば、「信号の見落とし」「ブレーキだと思ったらアクセルだった」などは昔から事故の主要な原因であって、当然ながら若い人でも起こす。別に認知症に限ったことじゃない。そうすると、『認知症患者が事故を起してる』という前提がどうも怪しく思えてくる。
「認知症批判」は隠れ蓑??
そうやって順番に追ってみると、結局今回の騒動が標的にしてるのは、実は認知症患者じゃなくて、ただの「高齢者」だということが見えてくる。もっと具体的には、"加齢による能力低下"。当然ながら誰しも、加齢によって注意力や動体視力は確実に低下する。それが病的水準じゃなくても、瞬時の判断を求められる自動車運にとって危険になることは想像に難くない。*1
ただ、高齢者全員を一概に「能力低下」扱いすると、いろいろとよろしくない*2から、「認知症」というもっともらしい単語を全面に押し出してるだけで、実態はただの『高齢者狩り』に他ならないと思うんです。
精神科医のとばっちり
で、そんな"隠れ蓑"にされて迷惑を被ってるのが、精神科医をはじめ、認知症を診てるお医者達。今後は事故を起こした人が病院に送られてきて、『認知症かどうか』を診断受けるようにってことになってるけど、上で見てきたとおり実のところ求められてるのは、『運転に支障のある能力低下があるかどうか!?』なのですから。ですがね・・・
そんなこと知らない。
知ったこっちゃない。