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「精神科医だけど質問ある?」>>1によるブログ

2ch「精神科医だけど質問ある?」スレ主が、過去の質問をもとに"よくある質問集"を作ります

精神科医から見た戸塚ヨットスクール。

結論:戸塚氏は精神疾患を誤解した上で、根拠の乏しい独自理論を展開している

戸塚宏氏(戸塚ヨットスクール)とは?

戸塚氏の発言はなかなかキャッチーです。特に、不登校ニートなどの問題に強い関心を持っている方ほど、彼の理論はある種"魅力的"に感じるのでしょう。
7月16日の以下の記事を読んで、既にtwitterユーザーらが大量の「共感する」引用をしています。これは非常に危険なことだと思うので、ここで反論しておこうと思います。

なお戸塚ヨットスクールについてご存じない方は以下参照。*1
簡単にいえば、"不登校・引きこもりの矯正施設"として有名なところです。
wikipedia:戸塚ヨットスクール


戸塚氏と精神医学分野の関わり

記憶にあたらしい所だと、精神科系学会でこんな"事件"がありました。

第 27 回日本総合病院精神医学会総会における戸塚宏氏の特別講演に関する理事会声明

戸塚宏氏の特別講演「私の脳幹論」(中略)本学会理事会は、戸塚氏が過去の暴力による体罰とその重大な結果について何ら反省を示していないこと、用いられている疾患概念等は精神医学の正しい理解に基づいたものではないこと、したがってその内容は本学会の見解とは全く相容れないことを全会一致で認定した。

http://psy.umin.ac.jp/content/document/rijikai_seimei_20150509.pdf

「閉じこもり・引きこもり支援」の講演に戸塚氏を招いたら*2、虐待推奨発言は出るわ、既存の精神医学の考えを全否定するわの凄い内容となり、隣の学会から名指しで批判される事態になったため、慌てて声明を出した次第です。

なお同事件を受けて児童青年精神医学は、戸塚氏の独自理論(脳幹論)を検証しつつ、非科学的であり精神医学の臨床現場への重大な破壊行為であると厳しく批判しています。*3
日本児童青年精神医学会 2015.04.15「私の脳幹論」理事会声明


戸塚氏の精神疾患への「誤解」と「二枚舌」

なお、話の前提となる"大人の発達障害"についての諸々は以下記事をご参照ください。


そして、ニュース記事の中で多く「賛同の声」が上がっている戸塚氏の発言はこれです。

戸塚も「捨てる方が冷たい」と言う。戸塚ヨットスクールは原則的に、精神疾患者、知的障害者自閉症の子以外にはすべて門戸を開いている。ただし、戸塚は今の時代に精神疾患と診断された子どもの8割が誤診だと言い切る
学校が手に負えんやつに、みんな病名を与える。発達障害の子どもって、ものすごく増えてるじゃない。あんなのインチキや。そう言えば学校の責任じゃなくなるからでしょ。昔から、自分の子どもを精神疾患だと言われ、納得できない親がうちに連れてくることがよくあった。やってみると、10人中8人は治る。昔はそういう子どもを発達障害なんて言わんやって」

これだけ聞くと誰も見捨てない超絶手腕のように思えますが、そのカラクリはお粗末なものです。上の「児童青年精神医学会」声明から引用すると、

前章に引用した通り戸塚氏は、発達障害はトレーニングで治ると述べ、幻聴等の精神病症状がある場合でもトレーニングをまず行い、悪化した時は統合失調症なので、そのときに初めて精神病として扱えばいいと述べている。これは換言するなら、病気や障害を有する者が不適切な対応をされることにより悪化した場合に、初めて適切な治療や支援を受けるべきであるという考えであり、重大な人権侵害である。
日本児童青年精神医学会 2015.04.15「私の脳幹論」理事会声明

つまり戸塚氏の中では「俺が治せないものが精神障害」なのです。つまり構造としては、

精神疾患と診断された子の8割は誤診だ、俺に任せろー!』
→『良くなった、やっぱり精神障害じゃなかったんだ!』
→『悪化したわ、俺が治せないものは精神障害だから他所行けや!』

・・・という超理論です。

なお、他によくtwitterで引用されている部分に、

学校が手に負えんやつに、みんな病名を与える。

がありますが、この指摘自体はその通りなんですけれども、別に批判されるようなことじゃありません。当然の事です。
精神医学の疾患概念として、社会的に適応できなくなっている代表的な群に「ラベル」を付けて今後の対策を立てやすくすることは必要な手順です。
特に発達障害については生物学的な背景も指摘されており、疾患単位としてはごく妥当なものであろうと思いますが、このそう言えば学校の責任じゃなくなるからでしょ(責任の外在化)理論と合わさると、批判の対象となりやすいようです。ですが「病名(ラベル)」を付けることは必ずしも責任の外在化を意味しません。外部からの支援可能性を示すだけです。
最後に、手前の記事の引用で恐縮ですが、発達障害についての持論を添えて終わりにします。

"大人の発達障害"で休職することになった時、何を考えるか?

これは発達障害に限らず殆どの精神疾患で言えることですが・・・
発達障害は、広い意味での「病気」ではありますが、『病気なら仕事が出来なくても許されるのか?』といえば現実問題として許されません。実際、外来を訪れる方の中には『発達障害だから急に仕事任せられても出来ません、もっとゆったりした仕事に変えてほしい!』などと主張する患者様たちが多くおります。でも冷静に考えて欲しいのですが、常識的に考えて、そんな要求を一方的に突きつけてくる社員を、引き続き雇いたいと思う経営者がいるでしょうか?(中略)あまりに"ワガママ"な要求ではないでしょうか?

精神疾患に限らず、病気であるということは「労働する能力が低い」ということです。だから卑屈になれとは言いませんが、医師の診断書を免罪符か何かと勘違いして『俺様は病気なんだ、お前らは俺のために尽くせ!』と会社に要求するようでは、誰も貴方を助けようとなどしません。まず変わるべきはあなた自身だ、ということは忘れないほうがいいと思います。そして会社が手を差し伸べてくれた時、感謝しながらお互いに歩み寄ると、復職への道が開けると思います。
"大人の発達障害"について - 「精神科医だけど質問ある?」>>1によるブログ

来月ころには時間出来そうなので、久しぶりにスレ立てでもしようかな―。

*1:この記事読むような方は既にご存知だとは思うが...

*2:なぜ招いたし!?

*3:なお同学会は、講演会の現場で何の反論も行わなかった司会者や、その後講演内容を学会誌に無批判に掲載した総合病院精神医学会の対応についても強く批判しています。