「精神科医だけど質問ある?」>>1によるブログ

2ch「精神科医だけど質問ある?」スレ主が、過去の質問をもとに"よくある質問集"を作ります

子宮頸がんワクチンは安全?

結論:安全ですが、国は態度を決めかねています。

あまり精神科医が言及する話題でもないと思うのですが、意外に質問が多かったので。あくまで私にとっては専門外の話題になりますので、参考までです。

2017/12/12追記:
2年越しでさらに追記です。

子宮頸がんワクチンの安全性について啓発活動を続けてこられた村中璃子医師が、科学誌『ネイチャー』の主催するジョン・マドックス賞を、日本人として初めて授賞されました。
一方、ワクチンを危険な悪者と囃し立てる"被害者"団体の奇天烈な記者会見をこぞって取り上げた大手マスコミ(朝日・読売・毎日)は、ワクチンの安全性について的確な情報発信を続けた村中氏の受賞を黙殺しています。

全国紙のWeb版では産経が唯一取り上げておりました。

2016/07/17追記:
この記事を見てくださっている方があまりに多いので、ちょっとだけ追記。H28.1にこの記事書いた後H28.3に副作用研究班の成果発表があり、国の見解は『安全』側に若干傾いた形です。
平成28年3月16日の成果発表会における発表内容について|厚生労働省
しかし『危険』を指摘する陣営の声はいまだ大きく、集団訴訟を始め様々なキャンペーンを張っています。一方で『危険』陣営の研究不正(?)を指摘する声もあり...いよいよ事態は混沌としてきました。
ここで私の考えを明確にしておきますが、私としては

  • HPVワクチンに薬剤としての危険性は少ないし、「接種推奨」出来るだけの十分な科学的根拠は揃った。
  • 「全身疼痛」などの有害事象は概ね精神疾患によると考えられるが、『危険』陣営のキャンペーンが続く限り「全身疼痛」の患者数は増え続けるだろう。
  • 国はいつまでも日和見を決め込むのではなく、態度を明確にして事態の収束を図るべきである。

と考えています。

子宮頸がんワクチンの"副作用"?

今何が問題になっているか、ですが、ざっくり言うと、子宮頸がんワクチン接種によって「疼痛や記憶障害などさまざまな症状が現れる」*1とする主張があります。

子宮頸がんワクチンの副反応「神経免疫異常症候群」かも:日経ウーマンオンライン【効くニュース from 日経ヘルス】

それで、なぜ精神科医にこんな話題が振られるかというと、これらの"副作用"というのが、精神科で言うところのヒステリー発作』*2を見ているだけなのではないか、という指摘が、従来より多くの小児科医や精神科医から為されているためです。

子供の接種、安全調査へ 子宮頸がんワクチン :日本経済新聞
以前から報告されている症状は、ワクチンとは無関係な思春期特有のものではないかとの指摘があった。調査でワクチンの安全性を客観的に評価し、接種の呼び掛けを再開するかの判断材料にする。

「ワクチン反対派」の主張は根拠薄弱

で、実際にこれどうなの?と考えると、市井の精神科医の感覚としては後者の(副作用では無いとする)意見のほうがしっくり来ますし、実際そうなんじゃ無いかと予想しています。またワクチン反対派の方々は、これまでにも CRPS(複合性局所疼痛症候群)やPOTS(起立性頻脈症候群)といった耳慣れない疾患概念や、従来より精神疾患との区別が曖昧だと批判の多いCFS(慢性疲労症候群)などを持ちだして様々な提言をしていますが、正直、コレといって危険性を示すような調査結果は得られていません。
しかしながら事ここにいたり、これ以上、ワクチンの"安全性"をどう証明するのでしょうか?危険とする大した証拠もないのにも関わらず"危険"のレッテルを張られたHPVワクチンは、悪魔の証明を求められる形になっているように思います。

とかやってたら、2015年12月にWHOの諮問機関がこんな声明を出してきました。

「エビデンス弱い」と厚労省を一蹴したWHOの子宮頸がんワクチン安全声明 WEDGE Infinity(ウェッジ)
専門家の副反応検討委員会は子宮頸がんワクチンと副反応の因果関係は無いとの結論を出したにもかかわらず、国は接種を再開できないでいる。以前からGASVS(補注;WHOの諮問委員会)が指摘しているとおり、薄弱なエビデンスに基づく政治判断は安全で効果あるワクチンの接種を妨げ、真の被害をもたらす可能性がある」声明の中で、政策判断を批判された国は日本のみ。政治的に配慮した表現を重視する国際機関が、一国だけ名指しで批判を行うのは異例のことだ。

かいつまむと

『世界的にはとっくに安全と決着してる副作用議論をいつまで続けてんだ!』
『政治的判断で日和って、これ以上、国ががん患者を生み出すことは許さん!』

(※ワクチンを打たせない=がん患者を増やしてる、の意)

と、普段は温厚なWHOさんが、珍しくおこです。マジおこです。

マスコミの責任

政治的な判断・・・というか、この場合、マスコミの態度こそ問題だと思うんですよね。 これだけネガティブキャンペーン張られたら、大抵の政治家は抗えないんじゃないかと・・・。多くの政治家さんは、医療行政改革を第一に行動しているわけではないと思うので、そんなところで意地はる必要もないですしね。 やはりこれも、日本脳炎ワクチンの推奨中止騒動*3と同じ構造・・・まるで進歩していないです。

薬の副作用は「ネットを介して伝染する」

これは私の私見ですが、今のご時世、薬の副作用って、ネットやマスコミの情報を介して「伝染」すると思うんですよね。俗っぽい言い方をすれば、ある種の「集団ヒステリー」です。
こうなると、あとは万人を救うことは諦めて、せめてまともな情報リテラシー持ってる方だけでも、 頸がんワクチンしっかり受けていることを願うだけ・・・です。あくまで、1人の精神科医の勝手な意見ですが。

*1:後に、日本線維筋痛症学会が HANS:子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群 という新しい疾患概念として提唱

*2:精神医学的には、解離性障害転換性障害・身体表現性障害などと呼びます。3つとも概ね同じ意味です。

*3:参考 マスコミの責任 : こんどうこどもクリニック 院長のブログ